在宅就業を希望する障がい者の方へ

コラム

誰も行ったことのない道

誰だって行ったことのない道は怖い、でも誰も行ったことのない道だからこそ好きな夢を描ける。

「今日はありがとうございます。」玄関はいると奥から元気のいい声が聞こえました。礼儀正しい青年らしい。声に導かれて居間に入ってきました。そこには思いっきり微笑んでいる若者がいました。今年大学の研究科を卒業したばかりの社会人一年生です。畳の上にパソコンがあり、彼は腹ばいになり横になったまま作業をしていました。生まれながらの脳性麻痺という運命を背負っている彼、外出は電動車椅子、室内では椅子に腰掛けています。長時間座ったまま姿勢は負担がかかるので、パソコンは腹ばいになり、横になったまま作業をしています。

彼の手首の付け根にはペンだこのような硬いたこできていたのに気づきました。肘を突いたまま何時間も片手だけの入力でパソコンに向かうのはさぞかし辛いだろうに・・・

そんな視線を打ち消すかのように彼は大学生活の楽しい話を夢中になってしてくれました。教室移動のために車椅子ごと階段を持ち上げてくれた仲間、手に障がいがありノートがとれない彼のために代筆してくれた友人たち、次々彼の口からでる友人の名前、旅行での楽しい思い出など嬉しそうに語ってくれました。

養護学校を卒業後は、作業所に通うというのが一般的な進路です。しかし彼は担任の先生の勧めで大学受験を決意しました。

頑張り屋の彼でも受験なんてまるで雲をつかむような話でした。彼の周囲には大学受験をした人はいませんでした。でも、思い切って挑戦することにしました。やっと車椅子でも通える予備校を見つけ、家庭教師についてもらい見事に合格しました。

「受験をしたということは一生の思い出です。」大変な苦労をしたことも微塵にも見せずにさらりと彼は笑顔で言いました。その笑顔の横にはいつも彼を支える明るいお母さん、そしてご家族の理解と応援の強い愛情を感じます。

ご両親は彼のことを障がいがあるからと特別扱いはせずに幼い頃から厳しく躾けられたそうです。「いつまでも私たちがついていてあげるわけにはいきませんから」と。

ご両親の教育方針通りなにもかも自分ひとりでできる頼もしい青年に育ちました。まだまだ彼の夢への挑戦は終わりません。

大学合格の次に挑戦したのが就職です。卒業後、周りの友人たちはリクルートスーツに身を固め就職活動を始めました。研究科にすすんだ彼にとっては別世界でした。

しかし、次々と仲間たちの就職が決まりだすとさすがの彼もあせり始めました。そんな彼に神様はちゃんとラッキーカードを用意してくださいました。それは彼のポジティブな将来の夢への考え方です。

人生の岐路に立った時、まだ誰も行ったことのない道に何が見えますか?不安と心配で一歩も先に進めずに諦めてしまう人もいるかもしれません。

でも彼は誰も行ったことのない道だからこそ、先には自分の願っている夢があるかもしれないと前向きにすすむ勇気があるのです。人によっては夢を叶える勇気は大変なもの、血のにじむような大変な努力をしないといけないものと勝手に決め付けてしまう人がいます。

ところが、夢に向かってすすむ彼にとってはもはや努力でもなく夢に近づく楽しい道のりでしかありません。京都に旅行に行くために、新幹線のホームに向かうのを「努力」ではなく楽しい道のりですね。

そんな彼の前向きにすすむ姿は周りにも勇気と明るさを与えてくれます。彼は初給料で、運動好きなお父さんにウォーキングシューズを、おしゃれなお母さんにはバッグをプレゼントしました。いつも感謝しているのに、恥ずかしくて「ありがとう。」と口にだして言えない彼の精一杯の感謝の気持ちです。

アメリカでは、障がいのある方を「a person with a physical challenge」と言うそうです。

彼は誰も行ったことのない道を、未知の夢に変えてしまうまさに挑戦者です。もしかしたら、もう次の夢を追いかけているかもしれません。

(J・N)

 

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